おのれこそ おのれのよるべ
お釈迦様の生前中、じかにお話になった語り言葉を書き留めたものが『法句経※(ほっくきょう)』だと私は聞いています。
その中に、こういう一節があります(『法句経』160)。
おのれこそ おのれのよるべ
おのれを措(お)きて 誰によるべぞ
よくととのへ(え)し おのれにこそ
まことえがたき よるべをぞ獲(え)ん
「お釈迦様は、最期にこの言葉を唱えていらっしゃいますよ」と、天眼(てんげん)第一の弟子・阿那律(あなりつ)は皆に言いました。
「おのれこそ おのれのよるべ」
つまり、自分自身を頼りにしなさいと強調しています。
ただし、「よくととのえし おのれにこそ…」と続く。
「おのれをよくととのえる」とは、いったいどういうことなのでしょうか。
お釈迦様の教えを信じ、その教えを守り、その教えに従って生きてゆくことであろうと、私は理解しています。
昨日お話した「自灯明(じとうみょう)・法灯明(ほうとうみょう)」は、このことを示しているのです。
人間は、ちゃんと目に見えたり、耳に聞こえたりするものを拝みたがるところがあります。
その結果、偶像だけを拠り処にして崇拝する状態に陥りやすいように思います。
「お釈迦様の教えをちゃんと身につけ、心をしっかりと耕しましょう。
教えを守って心を鍛えながら生きていけば、自分自身が何よりのよるべになるのです」
これが涅槃図(ねはんず)から読み取って学ぶことです。
本当に大事なのは心の問題であるということを、私たちは言い続けなければいけないのだろうと思います。
――引き続き明日も、涅槃図にまつわるお話をします。
※ 法句経:原典は423編の詩句から成り、初期仏教教団に伝持されていたものが後に編集されたと考えられている。簡潔な美しい表現の中に、人間が真の幸福を得る道が説かれている。