円覚寺 塔頭 雲頂菴

菴主の話

雲頂菴という寺を守る住職として、日々考えていることをお話していきます。

涅槃図と猫

涅槃図(ねはんず)には、さまざまな系統があります。
だいたい大きいのが相場で、上空に満月、画面の真ん中よりも向かって右側にお釈迦様の母親の摩耶夫人(まやぶにん)が描かれています。

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お釈迦様の容体が急に悪くなったので、弟子の阿那律(あなりつ)が摩耶夫人に知らせました。
雲に乗って駆けつけて来た摩耶夫人は、持っていた不老不死の薬を我が息子に飲ませたいと思っていましたが、どうやら間に合いそうにない。そこで薬袋を投げました。
しかしお釈迦様の枕辺まで届かず、薬袋は沙羅(さら)の木の枝に引っかかってしまいます。
それをサッと天眼(てんげん)で観てとった阿那律は、鼠に「あれをすぐ取って来い!」と指示しました。
集まっていた動物の中で一番すばしっこい鼠に行かせようとしたのですね。
しかし、鼠が動いた瞬間に猫が動き、食べてしまったそうです。
猫が鼠を食べたせいで不老不死の薬が間に合わず、お釈迦様は亡くなってしまわれた。
そのため、涅槃図には猫を描かないことになったという言い伝えがあります。

猫が実際に描かれているか描かれていないか、私はつぶさに観察したことがありません。
 

円覚寺に二つある大きな涅槃図のうち、国の重要文化財に指定されている鎌倉時代の涅槃図は、古式にのっとったもので、非常にシンプルな構図で描かれています。

もう一つの涅槃図は、徳川幕府の寺請け制度により、庶民も仏教に触れるようになった江戸時代に描かれたものです。
猫と鼠の話は、このような時代に生まれたのではないかと思います。
当時はまだ、文字が読めない人もたくさんいたでしょう。
ですからお坊さんたちは、涅槃図などの絵を掲げ、人々にわかりやすい物語性をもたせて仏の教えを説いたのです。
 

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