円覚寺 塔頭 雲頂菴

菴主の話

雲頂菴という寺を守る住職として、日々考えていることをお話していきます。

漱石の小説〈3〉

夏目漱石の小説『こころ』に、「K」という人物が出てきます。
彼は浄土真宗のお坊さんの次男で、医者の養子となりました。
そして医学を修めるために東京へ出されます。
けれども本人は、僧になりたいと考えて精進を重ねていました。

Kは、友人である私(先生)に向かって「精神的に向上心のないものは馬鹿だ」と言い放ちます。
のちに今度は先生が、Kに向かってその言葉を二度繰り返します。

「精神的に向上心のないものは馬鹿だ」

たったそれだけの言葉ですが、たぶんそういう部分も、実はもっとずっと深いものがあるのではないかと思うのです。漱石は、何か経典や親鸞の教えをよくわかっていて、このように書いているのではないか。
 

本を読んだ時に、「あぁ、これはあのことだな」とわかるかどうかは、読者のもっている教養や知識の問題です。
だから、そこから次に広がるか広がらないかというのは、ひとえに自分にかかっているのです。

『それから』でも『彼岸過迄』でも『こころ』でも、いつかまた読んだら、その時その時違うことに気づくのではないかと思わせるものがあります。
たぶん漱石の小説がいまだに飽きられず、何か深く感じ入るものがあるのは、自分の発想の中だけで書くのではなく、深く突き詰めた教養や知識を展開させる力があるからなのではないでしょうか。
 

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