円覚寺 塔頭 雲頂菴

菴主の話

雲頂菴という寺を守る住職として、日々考えていることをお話していきます。

杜鵑枝上月三更(とけんしじょう つきさんこう)

今日は掛け軸についてのお話です。

「杜鵑枝上月三更」
朝比奈宗源(あさひなそうげん)/筆

jiku_20150525

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杜鵑(とけん)とは、ホトトギスの漢名です。
この句は、崔塗(さいと)という詩人が書いた唐詩のうちの一節なのです。

水流花謝両無情 送盡東風過楚城
蝴蝶夢中家萬里 杜鵑枝上月三更
……

上の句
蝴蝶夢中家萬里(こちょうのむちゅう いえばんり)
のあとに、本日の詩句が続きます。

蝴蝶(胡蝶)の夢中というのは、中国、戦国時代の思想家である荘子(そうし)の故事からきたものです。
夢に蝶となって楽しみ、自分と蝶が渾然一体(こんぜんいったい)となって楽しんでいる境地だという。

しかし、この上の句のことは、あまり考えなくてもいいのではないかと思います。
今のようなよい季節に、ホトトギスが「まだお前寝ているのか?」と鳴いている情景を思い浮かべてください。

ホトトギスは夏の到来を告げる鳥とされ、昔から詩歌にうたわれてきました。
小倉百人一首で知られる
「ほととぎす 鳴きつる方を ながむれば ただ有明の 月ぞ残れる」(後徳大寺左大臣)
という和歌にも出てきます。
あるいは、「夜にも鳴く」「姿も見せずに鳴く」ことから冥土に通うと言われ、古代中国の伝説などから死を連想するイメージもある鳥なのです。
だから、読み手にはもっと深い意味があるのかもしれません。

だけどここでは、
夜更けにホトトギスの鳴き声が聞こえ、「どこにいるのかな?」と顔を上げてみたら、月が煌々と美しく輝いていた
という、この季節の爽やかなイメージを読み取ればいいんじゃないかと思います。
 

※ 朝比奈宗源(1891〜1979):明治、大正、昭和期の臨済宗の僧。号は別峰(べっぽう)、平等軒。京都妙心寺や鎌倉円覚寺などで修行。臨済宗円覚寺派管長。世界連邦日本仏教徒協議会会長。また、人気テレビ時代劇に題字を揮毫したことでも知られる。
 

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